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『古文真宝前集』巻一~巻三

巻一 1 勸學文

1-1 《勸學文》 宋・眞宗皇帝

富家不用買良田。書中自有千鍾粟。安居不用架高堂。書中自有黃金屋。出門莫恨無人隨。書中車馬多如簇。娶妻莫恨無良媒。書中有女顏如玉。男兒欲遂平生志。六經勤向窗前讀。

《勧学文》
家を富ますに 良田を買ふを用ゐず。書中 自づから 千鍾の粟 有り。居を安んずるに 高堂を架するを用ゐず。書中 自づから 黄金の屋 有り。門を出づるに 人の随ふ無きを恨む莫れ。書中 車馬 多くして 簇るが如し。妻を娶るに 良媒の無きを恨む莫れ。書中 女 有り 顔 玉の如し。男児 平生の志を遂げんと欲せば。六経 勤めて 窓前に向(オ)いて読め。

1-2 《勸學》 宋・仁宗皇帝

朕觀無學人。無物堪比倫。若比於草木。草有靈芝木有椿。若比於禽獸。禽有鸞鳳獸有麟。若比於糞土。糞滋五穀土養民。世閒無限物。無比無學人。

《勧学》
朕 無学の人を観るに。物の比倫するに堪ふる無し。若し 草木に比すれば。草には霊芝 有り。木には 椿 有り。若し 禽獣に比すれば。禽には 鸞鳳 有り。獣には 麟 有り。若し 糞土に比すれば。糞は五穀を滋し。土は民を養ふ。世間 無限の物。無学の人に比する無し。

1-3 《勸學歌》 司馬溫公(司馬光)

養子不敎父之過。訓導不嚴師之惰。父敎師嚴兩無外。學問無成子之罪。煖衣飽食居人倫。視我笑談如土塊。攀高不及下品流。稍遇賢才無與對。勉後生。力求誨。投明師。莫自昧。一朝雲路果然登。姓名亞等呼先輩。室中若未結親姻。自有佳人求匹配。勉旃汝等各早修。莫待老來徒自悔。

《勧学歌》
子を養ひて 教へざるは 父の過ちなり。訓導して 厳ならざるは師の惰りなり。父 教へ 師 厳なること 両つながら外 無きに。学問 成らざるは 子の罪なり。煖衣飽食して 人倫に居り。我を視て 笑談 土塊の如くす。高きに攀ぢて及ばず 下品に流し。稍 賢才に遇へば 与に対ふる無し。勉めよ 後生。力めて誨へを求めよ。明師に投じて。自ら昧ますこと莫かれ。一朝 雲路に 果然として登らば。姓名 亜(ツ)いて等しく先輩と呼ばれん。室中に若し未だ親姻を結ばずんば。自づから佳人の匹配を求むる有らん。旃(これ)を勉めよ 汝等 各〻 早く修めよ。老来を待ちて 徒らに自ら悔ゆること莫かれ。

1-4 《勸學文》 柳屯田(柳營)

父母養其子而不敎。是不愛其子也。雖敎而不嚴。是亦不愛其子也。父母敎而不學。是子不愛其身也。雖學而不勤。是亦不愛其身也。是故養子必敎。敎則必嚴。嚴則必勤。勤則必成。學則庶人之子爲公卿。不學則公卿之子爲庶人。

《勧学文》
父母 其の子を養ひて 教へざるは。是れ 其の子を愛せざるなり。教ふと雖も 厳ならざるは。是れも亦た 其の子を愛せざるなり。父母 教ふるも 学ばざるは。是れ 子の其の身を愛せざるなり。学ぶと雖も 勤めざるは。是も亦た 其の身を愛せざるなり。是の故に子を養ふには必ず教へ。教ふれば則ち必ず厳にす。厳にすれば則ち必ず勤め。勤むれば則ち必ず成る。学べば則ち庶人の子も公卿と為り。学ばざれば則ち公卿の子も庶人と為る。

1-5 《勸學文》 王荆公(王安石)

讀書不破費。讀書萬倍利。書顯官人才。書添君子智。有卽起書樓。無卽致書櫃。窗前看古書。燈下尋書義。貧者因書富。富者因書貴。愚者得書賢。賢者因書利。只見讀書榮。不見讀書墜。賣金買書讀。讀書買金易。好書卒難逢。好書眞難致。奉勸讀書人。好書在心記。

《勧学文》
読書は費を破らず。読書は万倍の利あり。書は官人の才を顕し。書は君子の智を添ふ。有らば即ち書楼を起し。無くんば即ち書櫃を致せ。窓前 古書を看。灯下 書義を尋ねよ。貧者は書に因りて富み。富者は書に因りて貴し。愚者は書を得て賢に。賢者は書に因りて利あり。只だ 読書して栄ゆるを見。読書して墜つるを見ず。金を売りて 書を買ひて読め。読書せば 金を買ふこと易し。好書は卒に逢い難く。好書は真に致し難し。読書の人に勧め奉る。好書は心に在りて記せよ。

1-6 《勸學文》 白樂天(白居易)

有田不耕倉廩虛。有書不敎子孫愚。倉廩虛兮歲月乏。子孫愚兮禮義疏。若惟不耕與不敎。是乃父兄之過歟。

《勧学文》
田有れども耕さざれば 倉廩 虚し。書有れども教えざれば 子孫 愚かなり。倉廩 虚しければ 歳月に乏しく。子孫 愚かなれば 礼義に疎し。惟だ 耕さざると教へざるとの若きは。是れ乃ち 父兄の過ちか。

1-7 《勸學文》 朱文公(朱熹)

勿謂今日不學而有來日。勿謂今年不學而有來年。日月逝矣歲不我延。嗚呼老矣是誰之愆。

《勧学文》
謂ふ勿れ 今日 学ばずして 来日 有りと。謂ふ勿れ 今年 学ばずして 来年 有りと謂。日月 逝けり 歳 我に延びず。嗚呼 老いたり 是れ誰が愆(あやまち)ぞ。

1-8 《符讀書城南》 韓退之(韓愈)

木之就規矩。在梓匠輪輿。人之能爲人。由腹有詩書。詩書勤乃有。不勤腹空虛。欲知學之力。賢愚同一初。由其不能學。所入遂異閭。兩家各生子。提孩巧相如。少長聚嬉戲。不殊同隊魚。年至十二三。頭角稍相疏。二十漸乖張。淸溝映汙渠。三十骨骼成。乃一龍一豬。飛黃騰踏去。不能顧蟾蜍。一爲馬前卒。鞭背生蟲蛆。一爲公與相。潭潭府中居。問之何因爾。學與不學歟。金璧雖重寶。費用難貯儲。學問藏之身。身在則有餘。君子與小人。不繫父母且。不見公與相。起身自犂鋤。不見三公後。寒饑出無驢。文章豈不貴。經訓乃葘畬 。潢潦無根源。朝滿夕巳除。人不通古今。馬牛而襟裾。行身陷不義。況望多名譽。時秋積雨霽。新涼入郊墟。燈火稍可親。簡編可卷舒。豈不旦夕念。爲爾惜居諸。恩義有相奪。作詩勸躊躇。

《符 書を城南に読む》
木の規矩に就くは。梓匠 輪輿に在り。人の能く人為るは。腹に詩書有るに由る。詩書は勤むれば乃ち有り。勤めざれば 腹 空虚なり。学の力を知らんと欲すれば。賢愚 同に初を一にす。其の学ぶ能はざるに由りて。入る所 遂に閭を異にす。両家 各〻 子を生み。提孩にして 巧 相ひ如(シ)く。少しく長じて 聚まりて嬉戯するに。同隊の魚に殊なること無し。年 十二三に至れば。頭角 稍 相ひ疎なり。二十にして 漸く乖張し。清溝 汚渠に映ず。三十にして 骨骼 成り。乃ち 一は竜 一は猪なり。飛黄は騰踏して去り。蟾蜍を顧みる能はず。一は馬前の卒と為りて。背に鞭うたれて 虫蛆を生ず。一は公と相とに為りて。潭潭として府中に居る。之を問ふ 何に因りて爾(シカ)るやと。学ぶと学ばざるとか。金璧は重宝なりと雖も。費用して 貯儲し難し。学問は之を身に蔵す。身 在れば 則ち余り有り。君子と小人とは。父母に繋(カカ)はらざるなり。見ずや 公と相と。身を起こすこと 犂鋤よりするを。見ずや 三公の後。寒饑 出づるに驢 無きを。文章 豈に貴からざらんや。経訓 乃ち葘畬なり。潢潦には根源無し。朝に満つるも夕には已に除さる。人にして古今に通ぜずんば。馬牛にして襟裾す。身を行ふも不義に陥る。況んや 名誉 多きを望むをや。時 秋にして 積雨 霽れ。新涼 郊墟に入る。灯火 稍 親しむべく。簡編 巻舒すべし。豈に 旦夕 念はざらんや。爾(ナンヂ)が為めに居諸を惜しむ。恩義 相ひ奪ふこと有り。詩を作りて躊躇を勧む。

※●符:韓愈の子

巻二 2 五言古風短篇

2-1 《淸夜吟》 邵康節(邵雍)

月到天心處。風來水面時。一般淸意味。料得少人知。

《清夜吟》
月 天心に至る処。風 水面に来る時。一般の清意の味はひ。料り得たり 人の知ること少なるを。  

2-2 《四時》 陶淵明

春水滿四澤。夏雲多奇峰。秋月揚明輝。冬嶺秀孤松。

《四時》
春水 四沢に満ち。夏雲 奇峰 多し。秋月 明輝を揚げ。冬嶺 孤松 秀づ。  

2-3 《訪道者不遇》 僧無本

松下問童子。言師採藥去。只在此山中。雲深不知處。

《道者を訪ねて遇はず》
松下に 童子に問へば。言ふ 師は薬を採り去(ユ)けり。只だ此の山中に在らんも。雲 深くして 処を知らずと。  

2-4 《蠶婦》 無名氏

昨日到城郭。歸來淚滿巾。遍身綺羅者。不是養蠶人。

《蚕婦》
昨日 城郭に到り。帰り来たりて 涙 巾に満つ。遍身 綺羅の者は。是れ 養蚕の人ならず。  

2-5 《憫農》 李紳

鋤禾日當午。汗滴禾下土。誰知盤中餐。粒粒皆辛苦。

《農を憫れむ》
禾を鋤きて 日は午に当たる。汗は滴る 禾下の土。誰か知らん 盤中の餐。粒粒 皆な辛苦なるを。  

2-6 《讀李斯傳》 李鄴

欺暗常不然。欺明當自戮。難將一人手。掩得天下目。

《李斯伝を読む》
暗を欺くすら 常に然らず。明を欺くは 当に自ら戮せらるべし。一人の手を将って、天下の目を掩ひ得難し。  

2-7 《王昭君》 李太白(李白)

昭君拂玉鞍。上馬啼紅頰。今日漢宮人。明朝胡地妾。

《王昭君》
昭君 玉鞍を払ふ。馬に上りて 紅頬 啼く。今日 漢宮の人。明朝 胡地の妾。  

2-8 《劍客》 賈島

十年磨一劍。霜刃未曾試。今日把似君。誰有不平事。

《剣客》
十年 一剣を磨く。霜刃 未だ曽て試みず。今日 把りて君に似(シメ)す。誰か不平の事有らんや。  

2-9 《七步詩》 曹子建(曹植)

煮豆燃豆萁。豆在釜中泣。本是同根生。相煎何太急。

《七歩詩》
豆を煮るに豆萁を燃やす。豆は釜中に在りて泣く。本 是れ 同根より生ずるに。相ひ煎ること 何ぞ太だ急なる。  

2-10 《貪泉》 吳隱之

古人云此水。一歃懷千金。試使夷齊飮。終當不易心。

《貪泉》
古人 此の水を云へらく。一歃すれば千金を懐ふと。試みに夷斉をして飲ましめば。終に当に心を易へざるべし。  

2-11 《商山路有感》 白居易(白樂天)

萬里路長在。六年今始歸。所經多舊館。太半主人非。

《商山の路に感 有り》
万里 路 長(トコシナ)へに在り。六年 今 始めて帰る。経る所 旧館 多きも。太半は主人 非なり。  

2-12 《金谷園》 無名氏

當時歌舞地。不說草離離。今日歌舞盡。滿園秋露垂。

《金谷園》
当時 歌舞の地。草の離離たるを説かず。今日 歌舞 尽きて。満園 秋露 垂る。  

2-13 《遊子吟》 孟郊

慈母手中線。遊子身上衣。臨行密密縫。意恐遲遲歸。難將寸草心。報得三春暉。

《遊子吟》
慈母 手中の線。遊子 身上の衣。行に臨みて 密密に縫ふ。意は恐る 遅遅として帰らんことを。寸草の心を将って、三春の暉に報い得難し。  

2-14 《子夜吳歌》 李太白(李白)

長安一片月。萬戶擣衣聲。秋風吹不盡。總是玉關情。何日平胡虜。良人罷遠征。

《子夜呉歌》
長安 一片の月。万戸 擣衣の声。秋風 吹き尽くさず。総て是れ 玉関の情。何れの日か 胡虜を平らげ。良人 遠征を罷めん。  

2-15 《友人會宿》 李太白(李白)

滌蕩千古愁。留連百壺飮。良宵宜且談。皎月未能寢。醉來臥空山。天地卽衾枕。

《友人 会宿す》
滌蕩す 千古の愁ひ。留連す 百壺の飲。良宵 宜しく且らく談ずべし。皎月 未だ寝る能はず。酔ひ来たりて 空山に臥せば。天地 即ち衾枕なり。  

2-16 《雲谷雜詠》 朱晦菴(朱熹)

野人載酒來。農談日西夕。此意良已勤。感歎情何極。歸去莫頻來。林深山路黑。

《雲谷雑詠》
野人 酒を載せて来たり。農談 日 西に夕なり。此の意 良(マコト)に已に勤む。感歎 情 何ぞ極まらん。帰り去りて 頻りには来ること莫れ。林 深くして 山路 黒し。  

2-17 《傷田家》 聶夷中

二月賣新絲。五月糶新穀。醫得眼前瘡。剜卻心頭肉。我願君王心。化作光明燭。不照綺羅筵。徧照逃亡屋。

《田家を傷む》
二月 新糸を売り。五月 新穀を糶る。眼前の瘡を医し得て。心頭の肉を剜却す。我 願はくは 君王の心。化して光明の燭と作り。綺羅の筵を照らさずして、徧く逃亡の屋を照らさんことを。  

2-18 《時興》 楊賁

貴人昔未貴。咸願顧寒微。及自登樞要。何曾問布衣。平明登紫閣。日晏下彤闈。擾擾路傍子。無勞歌是非。

《時興》
貴人も昔は未だ貴からず。咸な願ふ 寒微を顧みんことを。自ら枢要に登るに及んでは。何ぞ曽て布衣を問はん。平明 紫閣に登り。日 晏にして 彤闈を下る。擾擾たる路傍の子。是非を歌ふを労すること無かれ。  

2-19 《離別》 陸魯望(陸龜蒙)

丈夫非無淚。不灑離別閒。仗劍對樽酒。恥爲游子顏。蝮蛇一螫手。壯士疾解腕。所思在功名。離別何足歎。

《離別》
丈夫 涙 無きに非ず。離別の間には灑がず。剣を仗ついて 樽酒に対し。游子の顔を為すを恥づ。蝮蛇 一たび手を螫(サ)せば、壮士 疾く腕を解く。思ふ所は功名に在り、離別 何ぞ歎くに足らん。  

2-20 《古詩》 無名氏

客從遠方來。遺我一端綺。相去萬餘里。故人心尙爾。文綵雙鴛鴦。裁爲合歡被。著以長相思。緣以結不解。以膠投漆中。誰能別離此。

《古詩》
客 遠方より来たりて、我に一端の綺を遺る。相ひ去ること 万余里、故人の心 尚ほ爾り。文綵は双鴛鴦、裁ちて合歓の被と為す。著するに長く相ひ思ふを以てし、縁(フチド)るに 結びて解けざるを以てす。膠を以て漆の中に投ずれば、誰か能く此れを別離せんや。  

2-21 《歸園田居》 陶淵明

種豆南山下。草盛豆苗稀。侵晨理荒穢。帶月荷鋤歸。道狹草木長。夕露沾我衣。衣沾不足惜。但使願無違。

《園田の居に帰る》
豆を種う 南山の下。草 盛んにして 豆苗 稀なり。晨を侵して荒穢を理め。月を帯びて 鋤を荷いて帰る。道 狭くして 草木 長く。夕露 我が衣を沾ほす。衣 沾ふも惜しむに足らず、但だ 願ひをして違ふこと無からしめんのみ。  

2-22 《問來使》 陶淵明

爾從山中來。早晚發天目。我屋南山下。今生幾叢菊。薔薇葉已抽。秋蘭氣當馥。歸去來山中。山中酒應熟。

《来使に問ふ》
爾 山中より来たる。早晩(イツ)か 天目を発せる。我は屋す 南山の下。今 幾叢の菊をか生ぜる。薔薇の葉 已に抽んで、秋蘭の気 当に馥たるべし。帰りなんいざ 山中。山中 酒 応に熟すべし。  

2-23 《王右軍》 李太白(李白)

右軍本淸眞。瀟洒出風塵。山陰遇羽客。愛此好鵝賓。掃素寫道經。筆精妙入神。書罷籠鵝去。何曾別主人。

《王右軍》
右軍は 本 清真。瀟洒として 風塵を出づ。山陰に羽客に遇ひ。此の好鵝の賓を愛す。素を掃ひて 道経を写せば。筆精 妙 神に入る。書し罷みて 鵝を籠にして去る。何ぞ曽て主人に別れん。  

2-24 《對酒憶賀監》 李太白

四明有狂客。風流賀季眞。長安一相見。呼我謫仙人。昔好杯中物。翻爲松下塵。金龜換酒處。卻憶淚沾巾。

《酒に対して 賀監を憶ふ》
四明に狂客有り。風流の賀季真。長安 一たび相ひ見れば。我を謫仙人と呼べり。昔 杯中の物を好み。翻って松下の塵と為る。金亀 酒に換へし処。却って憶えば 涙 巾を沾ほす。  

2-25 《對酒憶賀監》 李太白(李白)

狂客歸四明。山陰道士迎。敕賜鏡湖水。爲君臺沼榮。人亡餘故宅。空有荷花生。念此杳如夢。凄然傷我情。

《酒に対して 賀監を憶ふ》
狂客 四明に帰れば。山陰 道士 迎ふ。勅して 鏡湖の水を賜ひ。君が台沼の栄と為す。人 亡びて 故宅 余り。空しく荷花の生ずる有るのみ。此れを念えば 杳として夢の如く。凄然として我が情を傷ましむ。  

2-26 《送張舍人之江東》 李太白(李白)

張翰江東去。正値秋風時。天晴一雁遠。海闊孤帆遲。白日行欲暮。滄波杳難期。吳洲如見月。千里幸相思。

《張舎人の江東に之くを送る》
張翰 江東に去る。正に秋風の時に値ふ。天 晴れて 一雁 遠く。海 闊うして 孤帆 遅し。白日 行くゆく暮れんと欲し。滄波 杳として期し難し。呉洲に如し月を見れば。千里 幸ひに相ひ思へ。  

2-27 《戲贈鄭溧陽》 李太白(李白)

陶令日日醉。不知五柳春。素琴本無絃。漉酒用葛巾。淸風北窗下。自謂羲皇人。何時到栗里。一見平生親。

《戯れに鄭溧陽に贈る》
陶令 日日に酔ひ。五柳の春を知らず。素琴 本より絃無く。酒を漉すに葛巾を用う。清風 北窓の下。自ら羲皇の人と謂ふ。何れの時にか栗里に到り。一たび平生の親を見ん。  

2-28 《嘲王歷陽不肯飮酒》 李太白(李白)

地白風色寒。雪片大如手。笑殺陶淵明。不飮杯中酒。浪撫一張琴。虛栽五株柳。空負頭上巾。吾於爾何有。

《王歴陽が肯へて酒を飲まざるを嘲る》
地 白くして 風色 寒く。雪片 大なること手の如し。笑殺す 陶淵明。杯中の酒を飲まざるを。浪りに一張の琴を撫し。虚しく五株の柳を栽う。空しく頭上の巾に負けば。吾 爾に於いて何か有らんや。  

2-29 《紫騮馬》 李太白(李白)

紫騮行且嘶。雙翻碧玉蹄。臨流不肯渡。似惜錦障泥。白雪關山遠。黃雲海戍迷。揮鞭萬里去。安得念春閨。

《紫騮馬》
紫騮 行き且つ嘶く。双翻す 碧玉の蹄。流れに臨めども 肯へて渡らず、錦障 泥を惜しむに似たり。白雪 関山 遠く。黄雲 海戍 迷ふ。鞭を揮ひて 万里に去る。安んぞ春閨を念ふを得ん。  

2-30 《待酒不至》 李太白(李白)

玉壺繫靑絲。沽酒來何遲。山花向我笑。正好銜杯時。晚酌東山下。流鶯復在兹。春風與醉客。今日乃相宜。

《酒を待てども至らず》
玉壺 青糸を繫ぎ。酒を沽ひ来ること何ぞ遅き。山花 我に向かって笑ふ。正に好し 杯を銜む時。晩に酌む 東山の下。流鶯 復た茲に在り。春風と酔客と。今日 乃ち相ひ宜し。  

2-31 《遊龍門奉先寺》 杜子美(杜甫)

已從招提遊。更宿招提境。陰壑生靈籟。月林散淸影。天闕象緯逼。雲臥衣裳冷。欲覺聞晨鐘。令人發深省。

《竜門の奉先寺に遊ぶ》
已に招提の遊びに従ひ。更に宿る 招提の境。陰壑 霊籟 生じ、月林 清影を散ず。天闕 象緯 逼り。雲臥 衣裳 冷やかなり。覚めんと欲して 晨鐘を聞けば。人をして深省を発せしむ。  

2-32 《戲簡鄭廣文兼呈蘇司業》 杜子美(杜甫)

廣文到官舍。繫馬堂階下。醉卽騎馬歸。頗遭官長罵。才名三十年。坐客寒無氈。近有蘇司業。時時與酒錢。

《戯れに鄭広文に簡し 兼ねて蘇司業に呈す》
広文 官舎に到り。馬を堂階の下に繫ぐ。酔へば即ち 馬に乗りて帰り。頗る官長の罵りに遭ふ。才名 三十年。坐客 寒くして氈 無し。近ごろ 蘇司業 有り。時時 酒銭を与ふ。  

2-33 《寄全椒山中道士》 韋應物

今朝郡齋冷。忽念山中客。澗底束荆薪。歸來煮白石。遙持一杯酒。遠慰風雨夕。落葉滿空山。何處尋行迹。

《全椒山中の道士に寄す》
今朝 郡斎 冷やかなり。忽ち山中の客を念ふ。澗底に荊薪を束ね。帰り来たりて 白石を煮るならん。遥かに一杯の酒を持し。遠く風雨の夕べを慰めん。落葉 空山に満ち。何れの処にか 行迹を尋ねん。  

2-34 《和韋蘇州詩寄鄧道士》 蘇東坡(蘇軾)

一杯羅浮春。遠餉採薇客。遙知獨酌罷。醉臥松下石。幽人不可見。淸嘯聞月夕。聊戲庵中人。空飛本無迹。

《韋蘇州詩に和して 鄧道士に寄す》
一杯の羅浮春。遠く採薇の客に餉る。遥かに知る 独り酌み罷みて。酔ひて松下の石に臥するを。幽人 見るべからず。清嘯 月夕に聞く。聊か庵中の人に戯る。空飛 本 迹 無し。  

2-35 《足柳公權聯句》 蘇軾(蘇東坡)

人皆苦炎熱。我愛夏日長。薰風自南來。殿閣生微涼。一爲居所移。苦樂永相忘。願言均此施。淸陰分四方。

《柳公権の聯句に足す》
人 皆な炎熱に苦しむも。我は夏日の長きを愛す。薫風 南より来たり。殿閣 微涼を生ず。一たび居の為めに移され。苦楽 永く相忘る。願はくは 言(ココ)に此の施を均しくし。清陰を四方に分たんことを。

※「人皆苦炎熱。我愛夏日長。」の二句は唐・文宗の句、「薰風自南來。殿閣生微涼。」の二句は柳公権の句、「一爲居所移」以下の四句が蘇東坡の句である 

2-36 《子瞻謫海南》 黃山谷(黃庭堅)

子瞻謫海南。時宰欲殺之。飽喫惠州飯。細和淵眀詩。彭澤千載人。東坡百世師。出處雖不同。氣味乃相似。

《子瞻 海南に謫せらる》
子瞻 海南に謫せられ。時宰 之を殺さんと欲す。飽くまで恵州の飯を喫し。細やかに淵明の詩に和す。彭沢は千載の人。東坡は百世の師。出処は同じからずと雖も。気味 乃ち相ひ似たり。

※●子瞻:蘇東坡 

2-37 《少年子》 李太白(李白)

靑春少年子。挾彈章臺左。鞍馬四邊開。突如流星過。金丸落飛鳥。夜入瓊樓臥。夷齊是何人。獨守西山餓。

《少年子》
青春の少年子。弾を挟む 章台の左。鞍馬 四辺に開き。突として流星の過ぐるが如し。金丸 飛鳥を落とし。夜は瓊楼に入りて臥す。夷斉は是れ何人ぞや。独り西山の餓を守る。  

2-38 《金陵新亭》 李白(李太白)

金陵風景好。豪士集新亭。擧目山河異。偏傷周顗情。四坐楚囚悲。不憂社稷傾。王公何慷慨。千載仰雄名。

《金陵の新亭》
金陵 風景 好し。豪士 新亭に集まる。目を挙ぐれば 山河 異なり。偏へに傷む 周顗の情。四坐 楚囚の悲しみ。社稷の傾くを憂へず。王公 何ぞ慷慨せる。千載 雄名を仰ぐ。  

2-39 《長行歌》 沈休文(沈約)?

靑靑園中葵。朝露待日晞。陽春布德澤。萬物生光輝。常恐秋節至。焜黃華葉衰。百川東到海。何時復西歸。少壯不努力。老大徒傷悲。

《長行歌》
青青たる園中の葵。朝露 日を待って晞(カワ)く。陽春 徳沢を布き。万物 光輝を生ず。常に恐らくは 秋節の至りて。焜黄として 華葉 衰へんことを。百川 東のかた海に到れば。何れの時にか 復た西に帰らん。少壮にして 努力せずんば。老大にして 徒らに傷悲せん。  

2-40 《雜詩》 陶淵明

結廬在人境。而無車馬喧。問君何能爾。心遠地自偏。採菊東籬下。悠然見南山。山氣日夕佳。飛鳥相與還。此閒有眞意。欲辨已忘言。

《雑詩》
廬を結んで人境に在り。而も車馬の喧しきこと無し。君に問ふ 何ぞ能く爾るやと。心 遠ければ 地 自づから偏なり。菊を採る 東籬の下。悠然として南山を見る。山気 日夕に佳く。飛鳥 相ひ与に還る。此の間に真意有り。弁ぜんと欲して 已に言を忘る。  

2-41 《雜詩》 陶淵明

秋菊有佳色。裛露掇其英。汎此忘憂物。遠我遺世情。一觴雖獨進。杯盡壺自傾。日入羣動息。歸鳥趨林鳴。嘯傲東軒下。聊復得此生。

《雑詩》
秋菊 佳色 有り。露に裛(うるほ)ひて 其の英を掇る。此の忘憂の物に汎べ。我が遺世の情を遠くす。一觴 独り進むと雖も。杯 尽きれば 壺 自ら傾く。日 入りて 群動 息み。帰鳥 林に趨きて鳴く。嘯傲す 東軒の下。聊か復た此の生を得たり。  

2-42 《擬古》 陶淵明

日暮天無雲。春風扇微和。佳人美淸夜。達曙酣且歌。歌竟長歎息。持此感人多。皎皎雲閒月。灼灼葉中華。豈無一時好。不久當如何。

《古に擬す》
日暮 天に雲無く。春風 微和を扇ぐ。佳人 清夜を美(ヨミ)し。曙に達するまで 酣(サケノ)み且つ歌ふ。歌 竟りて 長く歎息し。此を持して 人を感ぜしむること多し。皎皎たる雲間の月。灼灼たる葉中の華。豈に一時の好 無からんや。久しからざるを 当に如何すべき。  

2-43 《鼓吹曲》 謝玄暉(謝朓)

江南佳麗地。金陵帝王州。逶迤帶綠水。迢遞起朱樓。飛甍夾馳道。垂楊蔭御溝。凝笳翼高蓋。疊鼓送華輈。獻納雲臺表。功名良可收。

《鼓吹曲》
江南は佳麗の地。金陵は帝王の州。逶迤として 緑水を帯び。迢逓として 朱楼 起こる。飛甍 馳道を夾み。垂楊 御溝を蔭ふ。凝笳 高蓋を翼(タス)け。畳鼓 華輈を送る。献納す 雲台の表。功名 良(マコト)に収むべし。  

2-44 《和徐都曹》 謝玄暉(謝朓)

宛洛佳遨遊。春色滿皇州。結軫靑郊野。迥瞰蒼江流。日華川上動。風光草際浮。桃李成蹊徑。桑楡蔭道周。東都已俶載。言歸望綠疇。

《徐都曹に和す》
宛洛 遨遊に佳く。春色 皇州に満つ。軫を青郊の野に結び。迥かに蒼江の流を瞰る。日華 川上に動き。風光 草際に浮ぶ。桃李 蹊径を成し。桑楡 道周を蔭ふ。東都已に俶(ハジ)めて載(コト)あり。言(ココ)に帰りて 緑疇を望まん。  

2-45 《遊東園》 謝玄暉(謝朓)

戚戚苦無悰。攜手共行樂。尋雲陟累榭。隨山望菌閣。遠樹曖芊芊。生煙紛漠漠。魚戲新荷動。鳥散餘花落。不對芳春酒。還望靑山郭。

《東園に遊ぶ》
戚戚として悰しみ無きに苦しみ。手を携へて共に行楽す。雲を尋ねて 累榭に陟り。山に随ひて 菌閣を望む。遠樹 曖として芊芊たり。生煙 紛として漠漠たり。魚 戯れて 新荷 動き。鳥 散じて 余花 落つ。芳春の酒に対せず。還って青山の郭を望む。  

2-46 《怨歌行》 班婕妤

新裂齊紈素。皎潔如霜雪。裁爲合歡扇。團圓似明月。出入君懷袖。動搖微風發。常恐秋節至。涼飆奪炎熱。棄捐篋笥中。恩情中道絕。

《怨歌行》
新たに裂く 斉の紈素。皎潔として 霜雪の如し。裁ちて合歓の扇と為せば。団円なること明月に似たり。出入す 君が懐袖。動揺して 微風 発す。常に恐らくは 秋節の至りて。涼飆の炎熱を奪はんことを。篋笥の中に棄捐せられ。恩情 中道にして絶えん。  

2-47 《雜詩》 江淹

紈扇如團月。出自機中素。畫作秦王女。乘鸞向煙霧。采色世所重。雖新不代故。竊愁涼風至。吹我玉階樹。君子恩未畢。零落在中路。

《雑詩》
紈扇は団月の如く。機中の素より出づ。画きて秦王の女と作し。鸞に乗じて 煙霧に向かふ。采色 世の重んずる所。新なりと雖も 故に代はらず。窃かに愁ふ 涼風の至りて。我が玉階の樹を吹かんことを。君子の恩 未だ畢らざるに。零落して 中路に在り。  

2-48 《古詩》 無名氏

迢迢牽牛星。皎皎河漢女。纖纖擢素手。札札弄機杼。終日不成章。涕泣零如雨。河漢淸且淺。相去復幾許。盈盈一水閒。默默不得語。

《古詩》
迢迢たり 牽牛星。皎皎たり 河漢の女。繊繊として素手を擢んで。札札として機杼を弄す。終日 章を成さず。涕泣 零つること雨の如し。河漢 清く且つ浅し。相ひ去ること 復た幾許ぞ。盈盈たる一水の間。黙黙として語るを得ず。  

2-49 《古詩》 無名氏

生年不滿百。常懷千歲憂。晝短苦夜長。何不秉燭遊。爲樂當及時。何能待來茲。愚者愛惜費。俱爲塵世嗤。仙人王子喬。難可以等期。

《古詩》
生年百に満たざるに。常に千歳の憂ひを懐く。昼 短く 夜 長きに苦しむ。何ぞ燭を秉りて遊ばざる。楽しみを為すは当に時に及ぶべし。何ぞ能く来茲を待たん。愚者は費を愛惜し。倶に塵世の嗤ひと為る。仙人 王子喬。以て期を等しくすべきこと難し。  

2-50 《綠筠軒》 蘇子瞻(蘇軾 蘇東坡)

可使食無肉。不可居無竹。無肉令人瘦。無竹令人俗。人瘦尙可肥。俗士不可醫。傍人笑此言。似高還似癡。若對此君仍大嚼。世閒那有楊州鶴。

《緑筠軒》
食をして肉無からしむべきも。居に竹無かるべからず。肉無きは人をして痩せしめ。竹無くんば人をして俗ならしむ。人 痩せなば 尚ほ肥ゆべきも。俗士は医すべからず。傍人 此の言を笑ふ。高きに似て還って痴に似たり。若し 此の君に対して仍ほ大嚼せば。世間 那んぞ楊州の鶴 有らんや。

※●綠筠軒:蘇東坡の知り合いの僧の小室の名 

2-51 《月下獨酌》 李太白(李白)

花下一壺酒。獨酌無相親。擧杯邀眀月。對影成三人。月旣不解飮。影徒隨我身。暫伴月將影。行樂須及春。我歌月徘徊。我舞影凌亂。醒時同交歡。醉後各分散。永結無情遊。相期邈雲漢。

《月下独酌》
花下 一壺の酒。独酌して相ひ親しむ無し。杯を挙げて明月を邀へ。影に対して三人と成る。月 既に飲むことを解せず。影 徒らに我が身に随ふ。暫く月と影とを伴ひ。行楽 須らく春に及ぶべし。我 歌えば 月 徘徊し。我 舞えば 影 凌乱す。醒むる時は同に交歓し。酔ひて後は 各〻分散す。永く無情の遊を結び。相ひ期すること 雲漢 邈かなり。  

2-52 《春日醉起言志》 李太白(李白)

處世若大夢。胡爲勞其生。所以終日醉。頹然臥前楹。覺來盻庭前。一鳥花閒鳴。借問如何時。春風語流鶯。感之欲歎息。對酒還自傾。浩歌待明月。曲盡已忘情。

《春日 酔起 志を言ふ》
処世 大夢の若し。胡為れぞ 其の生を労せん。所以に 終日 酔ひて。頽然として前楹に臥す。覚め来たりて庭前を盻(ミ)れば。一鳥 花間に鳴く。借問す 如何なる時ぞと。春風に流鶯 語る。之に感じて歎息せんと欲し。酒に対して還た自づから傾く。浩歌して 明月を待てば。曲 尽きて 已に情を忘る。  

2-53 《蘇武》 李太白(李白)

蘇武在匈奴。十年持漢節。白雁上林飛。空傳一書札。牧羊邊地苦。落日歸心絕。渴飮月窟水。飢餐天上雪。東還沙塞遠。北愴河梁別。泣把李陵衣。相看淚成血。

《蘇武》
蘇武 匈奴に在りて。十年 漢節を持す。白雁 上林に飛び。空しく伝ふ 一書札。牧羊 辺地に苦しみ。落日 帰心 絶ゆ。渇しては飲む 月窟の水。飢ゑては餐ふ 天上の雪。東に還れば 沙塞 遠く。北のかた愴む 河梁の別れ。泣いて李陵の衣を把り。相ひ看て 涙 血を成す。  

2-54 《雜詩》 陶淵明

人世無根蔕。飄如陌上塵。分散逐風轉。此已非常身。落地爲兄弟。何必骨肉親。得歡當作樂。斗酒聚比鄰。盛年不重來。一日難再晨。及時當勉勵。歲月不待人。

《雑詩》
人世 根蔕 無し。飄として 陌上の塵の如し。分散して風を逐ひて転ず。此れ已に常の身に非ず。地に落ちて兄弟と為るは。何ぞ必ずしも骨肉の親のみならんや。歓を得れば当に楽しみを作すべし。斗酒 比隣を聚む。盛年 重ねては来らず。一日 再びは晨なり難し。時に及んで当に勉励すべし。歳月 人を待たず。  

2-55 《歸田園居》 陶淵明

野外罕人事。深巷寡輪鞅。白日掩柴扉。虛室絕塵想。時復墟曲中。披草共來往。相見無雜言。但道桑麻長。桑麻日已長。我土日已廣。常恐雪霰至。零落同草莽。

《田園の居に帰る》
野外 人事 罕に。深巷 輪鞅 寡なし。白日 柴扉を掩ひ。虚室 塵想を絶つ。時に復た墟曲の中。草を披いて共に来往す。相ひ見て 雑言 無く。但だ桑麻の長ずるを道ふ。桑麻 日〻已に長く。我が土 日〻已に広し。常に恐らくは 雪霰の至りて。零落して草莽と同じからんことを。  

2-56 《鼠鬚筆》 蘇叔黨(蘇過)

大倉失陳紅。狡穴得餘腐。旣興丞相歎。又發廷尉怒。磔肉餧餓貓。分髥雜霜兔。插架刀槊健。落紙龍蛇騖。物理未易詰。時來卽所遇。穿墉何卑微。託此得佳譽。

《鼠鬚筆》
大倉 陳紅を失ひ。狡穴 余腐を得たり。既に丞相の歎を興し。又た廷尉の怒りを発す。肉を磔いて 餓猫を餧ひ。髥を分かちて 霜兎を雑(マジ)ふ。架に挿(サシハサ)めば刀槊 健かに。紙に落とせば 竜蛇 騖(ハシ)る。物理 未だ詰め易からず。時 来たりて 遇ふ所に即く。墉を穿つこと何ぞ卑微なる。此に託して佳誉を得たり。  

2-57 《妾薄命》 陳無己(陳師道 陳后山)

主家十二樓。一身當三千。古來妾薄命。事主不盡年。起舞爲主壽。相送南陽阡。忍著主衣裳。爲人作春姸。有聲當徹天。有淚當徹泉。死者恐無知。妾身長自憐。

《妾薄命》
主家の十二楼。一身 三千に当たる。古来 妾が薄命なる。主に事へて年を尽くさず。起ち舞ひて主が為めに寿ぎしに。相ひ送る 南陽の阡。忍びんや 主が衣裳を著け。人の為めに春姸を作すに。声有り 当に天に徹すべし。涙 有り 当に泉に徹すべし。死者は恐らくは知ること無からん。妾が身 長へに自ら憐れむ。  

2-58 《妾薄命》 陳無己(陳師道 陳后山)

葉落風不起。山空花自紅。捐世不待老。惠妾無其終。一死尙可忍。百歲何當窮。天地豈不寬。妾身自不容。死者如有知。殺身以相從。向來歌舞地。夜雨鳴寒蛩。

《妾薄命》
葉 落ちて 風 起こらず。山 空しくして 花 自づから紅なり。世を捐つるに老を待たず。妾に恵むこと 其の終り無し。一死 尚ほ忍ぶべし。百歳 何ぞ当に窮むべけんや。天地 豈に寛からざらんや。妾が身 自ら容れざるなり。死者 如し知ること有らば。身を殺して以て相ひ従はん。向来 歌舞の地。夜雨 寒蛩 鳴く。  

2-59 《靑靑水中蒲》 韓退之(韓愈)

靑靑水中蒲。下有一雙魚。君今上隴去。我在與誰居。靑靑水中蒲。長在水中居。寄語浮萍草。相隨我不如。靑靑水中蒲。葉短不出水。婦人不下堂。行子在萬里。

《青青たり水中の蒲》
青青たり 水中の蒲。下に一双の魚有り。君 今 隴に上りて去る。我 在りて 誰と居らん。青青たり 水中の蒲。長く水中に在りて居る。語を浮萍の草に寄す。相ひ随ふこと我は如かずと。青青たり 水中の蒲。葉 短くして 水を出でず。婦人 堂を下らず。行子 万里に在り。  

2-60 《幽懷》 韓退之(韓愈)

幽懷不可寫。行此春江潯。適與佳節會。士女競光陰。凝妝耀州渚。繁吹蕩人心。閒關林中鳥。知時爲和音。豈無一樽酒。自酌還自吟。但悲時易失。四序迭相侵。我歌君子行。視古猶視今。

《幽懐》
幽懐 写すべからず。此の春江の潯を行く。適〻佳節と会ひ。士女 光陰を競ふ。凝粧 州渚に耀き。繁吹 人心を蕩かす。間関たる林中の鳥。時を知りて和音を為す。豈に一樽の酒 無からんや。自ら酌み 還た自ら吟ず。但だ悲しむ 時 失ひ易く。四序 迭ひに相ひ侵すを。我 君子行を歌へば。古を視ること 猶ひ今を視るがごとし。  

2-61 《公讌》 曹子建(曹植)

公子愛敬客。終宴不知疲。淸夜遊西園。飛蓋相追隨。明月澄淸影。列宿正參差。秋蘭被長坂。朱華冒綠池。潛魚躍淸波。好鳥鳴高枝。神飆接丹轂。輕輦隨風移。飄颻放志意。千秋長若斯。

《公讌》
公子 客を愛敬し。宴を終ふるも疲れを知らず。清夜 西園に遊び。飛蓋して 相ひ追随す。明月 清影を澄まし。列宿 正に参差たり。秋蘭 長坂を被ひ。朱華 緑池を冒ふ。潜魚 清波に躍り。好鳥 高枝に鳴く。神飆 丹轂に接し。軽輦 風に随ひて移る。飄颻として 志意を放(ホシイママ)にし。千秋 長へに斯くの若くならん。  

2-62 《獨酌》 李太白

天若不愛酒。酒星不在天。地若不愛酒。地應無酒泉。天地旣愛酒。愛酒不愧天。巳聞淸比聖。復道濁如賢。賢聖旣已飮。何必求神仙。三杯通大道。一斗合自然。但得醉中趣。勿爲醒者傳。

《独酌》
天 若し 酒を愛せずんば。酒星 天に在らざらん。地 若し 酒を愛せずんば。地に応に酒泉 無かるべし。天地 既に酒を愛す。酒を愛するは天に愧ぢず。已に聞く 清きは聖に比すと。復た道ふ 濁れるは賢の如しと。賢聖 既已に飲めり。何ぞ必ずしも神仙を求めん。三杯 大道に通じ。一斗 自然に合す。但だ酔中の趣きを得んのみ。醒者の為めに伝ふること勿れ。  

2-63 《歸田園》 陶淵明

種苗在東皐。苗生滿阡陌。雖有荷鋤倦。濁酒聊自適。日暮巾柴車。路暗光已夕。歸人望煙火。稚子候簷隙。問君亦何爲。百年會有役。但願桑麻成。蠶月得紡績。素心正如此。開徑望三益。

《田園に帰る》
苗を種ゑて東皐に在り。苗 生じて 阡陌に満つ。鋤を荷ふて倦むこと有りと雖も。濁酒 聊か自ら適す。日暮 柴車を巾(カザ)り。路 暗くして 光 已に夕なり。帰人 煙火を望み。稚子 簷隙に候つ。君に問ふ 亦た何をか為すと。百年 会ず役有り。但だ願はくは 桑麻の成りて。蚕月 紡績するを得んことを。素心 正に此くの如し。径を開いて三益を望む。  

2-64 《和陶淵明擬古》 蘇東坡(蘇軾)

有客扣我門。繫馬門前柳。庭空鳥雀噪。門閉客立久。主人枕書臥。夢我平生友。忽聞剝啄聲。驚散一杯酒。倒裳起謝客。夢覺兩愧負。坐談雜今古。不答顏愈厚。問我何處來。我來無何有。

《陶淵明の古に擬するに和す》
客有り 我門を扣き。馬を繋ぐ 門前の柳。庭 空しく 鳥雀 噪ぎ。門 閉ぢて 客 立つこと久し。主人 書を枕にして臥し。我 平生の友を夢む。忽ち 剝啄の声を聞き。驚散す 一杯の酒。裳を倒して 起ちて客に謝し。夢覚 両つながら負くを愧づ。坐談 今古を雑(マジ)へ。答へずして 顔 愈〻厚し。我に問ふ 何処より来たるやと。我は無何有より来たれり。  

2-65 《責子》 陶淵明

白髮被兩鬢。肌膚不復實。雖有五男兒。總不好紙筆。阿舒已二八。懶惰故無匹。阿宣行志學。而不愛文術。雍端年十三。不識六與七。通子垂九齡。但覓梨與栗。天運苟如此。且進杯中物。

《子を責む》
白髪 両鬢に被り。肌膚 復た実ならず。五男の児有りと雖も。総て紙筆を好まず。阿舒 已に二八なるも。懶惰 故(コトサラ)に匹無し。阿宣 行くゆく志学なるも。而も文術を愛さず。雍 端は 年十三にして。六と七とを識らず。通子 九齢に垂(なんな)んとして。但だ 梨と栗とを覓むのみ。天運 苟くも此くの如くんば。且らく杯中の物を進めん。  

2-66 《田家》 柳子厚(柳宗元)

古道饒蒺藜。縈廻古城曲。蓼花被隄岸。陂水寒更綠。是時收穫竟。落日多樵牧。風高楡柳疏。霜重梨棗熟。行人迷徑去。野鳥競棲宿。田翁笑相念。昏黑愼原陸。今年幸少豐。無惡饘與粥。

《田家》
古道 蒺藜 饒く。縈廻す 古城の曲。蓼花 隄岸を被ひ。陂水 寒くして更に緑なり。是の時 収穫 竟り。落日 樵牧 多し。風 高くして 楡柳 疎に。霜 重くして 梨棗 熟す。行人 径去に迷ひ。野鳥 棲宿を競ふ。田翁 笑ひて相ひ念ふ。昏黒 原陸を慎め。今年 幸ひに少しく豊かなり。饘と粥とを悪(イト)ふこと無かれ。

巻三 3 五言古風長篇

3-1 《直中書省》 謝靈運

紫殿肅陰陰。彤庭赫弘敞。風動萬年枝。日華承露掌。玲瓏結綺錢。深沈映朱網。紅藥當階翻。蒼苔依砌上。茲言翔鳳池。鳴珮多淸響。信美非吾室。中園思偃仰。朋情已鬱陶。春物方駘蕩。安得凌風翰。聊恣山泉賞。

《中書省に直す》
紫殿 粛として陰陰たり。彤庭 赫として弘敞なり。風は動かす 万年の枝。日は華やぐ 承露の掌。玲瓏として綺銭を結び。深沈として朱網に映ず。紅薬 階に当たりて翻り。蒼苔 砌に依りて上る。茲に言(ワレ) 鳳池に翔けり。鳴珮 清響 多し。信に美なりと雖も吾が室に非ず。中園にして偃仰を思ふ。朋情 已に鬱陶たり。春物 方に駘蕩たり。安くんぞ凌風の翰を得て。聊か山泉の賞を恣にせん。  

3-2 《古詩》 無名氏

行行重行行。與君生別離。相去萬餘里。各在天一涯。道路阻且長。會面安可期。胡馬依北風。越鳥巢南枝。相去日已遠。衣帶日已緩。浮雲蔽白日。遊子不復返。思君令人老。歲月忽已晚。棄捐勿復道。努力加餐飯。

《古詩》
行き行きて 重ねて行き行く。君と生きながら別離す。相ひ去ること万余里。各〻天の一涯に在り。道路 阻にして且つ長し。会面 安くんぞ期す可けん。胡馬は北風に依り。越鳥は南枝に巣くふ。相ひ去ること日〻已に遠く。衣帯 日〻已に緩む。浮雲 白日を蔽ひ。遊子 復たとは返らず。君を思へば人を老せしむ。歳月 忽ち已に晩る。棄捐しせらるるも復た道ふこと勿れ。努力して餐飯を加へよ。  

3-3 《擬古》 陶淵明

東方有一士。被服常不完。三旬九遇食。十年著一冠。辛苦無此比。常有好容顏。我欲觀其人。晨去越河關。靑松夾路生。白雲宿簷端。知我故來意。取琴爲我彈。上絃驚別鶴。下絃操孤鸞。願留就君住。從今至歲寒。

《擬古》
東方に一士有り。被服 常に完からず。三旬 九たび食に遇ひ。十年 一冠を著く。辛苦 此の比無きも。常に好容顔有り。我 其の人を観んと欲し。晨に去(ユ)きて河関を越ゆ。青松 路を夾んで生じ。白雲 簷端に宿る。我が故らに来たるの意を知り。琴を取りて我が為めに弾ず。上絃 別鶴を驚かし。下絃 孤鸞を操る。願はくは留まりて君に就きて住み。今より歳寒に至らん。  

3-4 《讀山海經》 陶淵明

孟夏草木長。繞屋樹扶疏。眾鳥欣有托。吾亦愛吾廬。旣耕亦已種。時還讀我書。窮巷隔深轍。頗廻故人車。欣然酌春酒。摘我園中蔬。微雨從東來。好風與之俱。汎覽周王傳。流觀山海圖。俛仰終宇宙。不樂復何如。

《山海経を読む》
孟夏 草木 長じ。屋を繞りて 樹 扶疏たり。衆鳥 托する有るを欣び。吾も亦た吾が廬を愛す。既に耕して亦た已に種ゑ。時に還た我が書を読む。窮巷 深轍より隔たり。頗る故人の車を廻らす。欣然として春酒を酌み。我が園中の蔬を摘む。微雨 東より来り。好風 之と俱なふ。汎く周王の伝を覧て。流(アマネ)く山海の図を観る。俛仰して宇宙を終ふ。楽しまずして復た何如。  

3-5 《夢李白》 杜子美(杜甫)

死別已吞聲。生別常惻惻。江南瘴癘地。逐客無消息。故人入我夢。明我長相憶。恐非平生魂。路遠不可測。魂來楓林靑。魂返關塞黑。今君在羅網。何以有羽翼。落月滿屋梁。猶疑見顏色。水深波浪闊。無使蛟龍得。

《李白を夢む》
死別 已に声を呑む。生別 常に惻惻たり。江南は瘴癘の地。逐客 消息 無し。故人 我が夢に入り。我の長らく相ひ憶ふを明らかにす。恐らくは平生の魂に非ざらんことを。路 遠くして 測るべからず。魂 来るとき 楓林 青く。魂 返るとき 関塞 黒し。今 君 羅網に在り。何を以てか 羽翼 有る。落月 屋梁に満ち。猶ほ 顔色を見るかと疑ふ。水 深く 波浪 闊し。蛟竜をして得しむること無かれ。  

3-6 《夢李白》 杜子美(杜甫)

浮雲終日行。遊子久不至。三夜頻夢君。情親見君意。吿歸常局促。苦道來不易。江湖多風波。舟楫恐失墜。出門搔白首。苦負平生志。冠蓋滿京華。斯人獨顦顇。孰云網恢恢。將老身反累。千秋萬歲名。寂寞身後事。

《李白を夢む》 浮雲 終日に行く。遊子 久しく至らず。三夜 頻りに君を夢む。情 親しくして 君の意を見る。帰るを告ぐるに常に局促たり。苦ろに道ふ 来ること易からずと。江湖 風波 多く。舟楫 失墜するを恐る。門を出でて 白首を掻く。苦だ平生の志に負く。冠蓋 京華に満つるに。斯の人 独り顦顇す。孰れか云ふ 網 恢恢たりと。将に老いんとして身 反って累ふ。千秋 万歳の名。寂寞たり 身後の事。  

3-7 《贈東坡》 黃山谷(黃庭堅)

江梅有佳實。託根桃李場。桃李終不言。朝露借恩光。孤芳忌皎潔。冰雪空自香。古來和鼎實。此物升廟廊。歲月坐成晚。煙雨靑已黃。得升桃李盤。以遠初見嘗。終然不可口。擲置官道傍。但使本根在。棄捐果何傷。

《東坡に贈る》
江梅 佳実 有り。根を桃李の場に託す。桃李 終に言はざれども。朝露 恩光を借す。孤芳 皎潔を忌まれ。氷雪 空しく自ら香し。古来 鼎実を和して。此の物 廟廊に升る。歳月 坐ろに晩を成し。煙雨 青 已に黄なり。桃李の盤に升るを得て。遠を以て初めて嘗めらる。終然として 口にすべからず。官道の傍に擲置せらる。但だ本根をして在らしめば。棄捐せらるるも果して何ぞ傷まん。  

3-8 《贈東坡》 黃山谷

靑松出澗壑。十里聞風聲。上有百尺絲。下有千歲苓。自性得久要。爲人制頹齡。小草有遠志。相依在平生。醫和不竝世。深根且固蒂。人言可醫國。何用大早計。小大材則殊。氣味固相似。

《東坡に贈る》
青松 澗壑より出で。十里 風声を聞く。上に百尺の糸有り。下に千歳の苓有り。自性 久要を得て。人の為めに頽齢を制す。小草 遠志 有り。相ひ依ること 平生に在り。医和 世に並ばず。根を深くして 且つ蒂を固くす。人は言ふ 国を医すべしと。何ぞ用ゐん 大早計。小大 材は則ち殊なるも。気味 固より相ひ似たり。  

3-9 《慈烏夜啼》 白樂天(白居易)

慈烏失其母。啞啞吐哀音。晝夜不飛去。經年守故林。夜夜夜半啼。聞者爲沾襟。聲中如告訴。未盡反哺心。百鳥豈無母。爾獨哀怨深。應是母慈重。使爾悲不任。昔有呉起去。母歿喪不臨。哀哉若此輩。其心不如禽。慈烏復慈烏。鳥中之曾參。

《慈烏夜啼》
慈烏 其の母を失ひ。啞啞として哀音を吐く。昼夜 飛び去らず。年を経て故林を守る。夜夜 夜半に啼き。聞く者 為めに襟を沾(うるほ)す。声中 告訴するが如し。未だ反哺の心を尽くさざるを。百鳥 豈に母無からんや。爾(ナンヂ)独り 哀怨 深し。応に是れ 母慈 重くして。爾をして悲しみ任(タ)えざらしむべし。昔 呉起の去る有り。母 歿するも喪に臨まず。哀しいかな 此の輩の若き。其の心 禽にも如かず。慈烏 復た慈烏。鳥中の曽参なり。  

3-10 《田家》 柳子厚(柳宗元)

籬落隔煙火。農談四鄰夕。庭際秋蛩鳴。疏麻方寂歷。蠶絲盡輸稅。機杼空倚壁。里胥夜經過。鷄黍事筵席。各言官長峻。文字多督責。東鄕後租期。車轂陷泥澤。公門少推恕。鞭撲恣狼藉。努力愼經營。肌膚眞可惜。迎新在此歲。惟恐踵前跡。

《田家》
籬落 煙火を隔つ。農談 四隣の夕。庭際 秋蛩 鳴き。疎麻 方に寂歴たり。蚕糸 尽く税に輸し。機杼 空しく壁に倚る。里胥 夜 経過し。鶏黍 筵席を事とす。各〻言ふ 官長 峻にして。文字 督責 多しと。東郷 租期に後れ。車轂 泥沢に陥る。公門 推恕 少にして。鞭撲 狼藉を恣にす。努力して経営を慎め。肌膚 真に惜しむべし。新を迎ふるは此の歳に在り。惟だ前跡を踵(ツ)がんことを恐る。  

3-11 《樂府上》 無名氏

靑靑河畔草。緜緜思遠道。遠道不可思。夙昔夢見之。夢見在我傍。忽覺在他鄕。他鄕各異縣。輾轉不可見。枯桑知天風。海水知天寒。入門各自媚。誰肯相爲言。客從遠方來。遺我雙鯉魚。呼童烹鯉魚。中有尺素書。長跪讀素書。書中竟何如。上有加餐飯。下有長相憶。

《楽府の上》
青青たり 河畔の草。緜緜として遠道を思ふ。遠道は思ふべからず。夙昔 夢に之を見る。夢に見しとき我が傍に在り。忽ち覚むれば他郷に在り。他郷 各〻県を異にし。輾転として見えべからず。枯桑 天風を知り。海水 天寒を知る。門に入りて各〻自ら媚ぶ。誰か肯へて相ひ為めに言はん。客 遠方より来たりて。我に双鯉魚を遺る。童を呼びて鯉魚を烹さしむれば。中に尺素の書有り。長跪して素書を読む。書中 竟に何如。上に餐飯を加へよと有り。下に長く相ひ憶ふと有り。  

3-12 《飮酒》 陶淵明

羲農去我久。擧世少復眞。汲汲魯中叟。彌縫使其淳。鳳鳥雖不至。禮樂暫得新。洙泗輟微響。漂流逮狂秦。詩書亦何罪。一朝成灰塵。區區諸老翁。爲事誠殷懃。如何絕世下。六籍無一親。終日馳車走。不見所問津。若復不快飮。空負頭上巾。但恨多謬誤。君當恕醉人。

《飲酒》
羲農 我を去ること久し。世を挙げて真に復ること少なり。汲汲たり 魯中の叟。弥縫して其れをして淳ならしむ。鳳鳥 至らずと雖も。礼楽 暫く新なるを得たり。洙泗 微響を輟(ヤ)め。漂流して狂秦に逮ぶ。詩書 亦た何の罪ぞ。一朝にして灰塵と成る。区区たる諸老翁。事を為すこと誠に殷懃なり。如何んせん 絶世の下。六籍 一も親しむ無し。終日 車を馳せて走るも。津を問ふ所を見ず。若し復た快飲せずんば。空しく頭上の巾に負かん。但だ恨むらくは謬誤の多きを。君 当に酔人を恕すべし。  

3-13 《歸田園居》 陶淵明

少無適俗韻。性本愛丘山。誤落塵網中。一去三十年。羈鳥戀舊林。池魚思故淵。開荒南野際。守拙歸園田。方宅十餘畝。草屋八九閒。楡柳蔭後簷。桃李羅堂前。曖曖遠人村。依依墟里煙。狗吠深巷中。鷄鳴桑樹顚。戶庭無塵雜。虛室有餘閑。久在樊籠裏。復得反自然。

《田園の居に帰る》
少くして俗韻に適する無く。性 本 丘山を愛す。誤って塵網の中に落ち。一去 三十年。羈鳥 旧林を恋ひ。池魚 故淵を思ふ。荒を南野の際に開き。拙を守りて園田に帰る。方宅 十余畝。草屋 八九間。楡柳 後簷を蔭ひ。桃李 堂前に羅なる。曖曖たり 遠人の村。依依たり 墟里の煙。狗は深巷の中に吠え。鶏は桑樹の顚に鳴く。戸庭 塵雑 無く。虚室 余閑 有り。久しく樊籠の裏に在り。復た自然に反るを得たり。  

3-14 《夏日李公見訪》 杜子美(杜甫)

遠林暑氣薄。公子過我遊。貧居類村塢。僻近城南樓。旁舍頗淳朴。所願亦易求。隔屋問西家。借問有酒不。牆頭過濁醪。展席俯長流。淸風左右至。客意已驚秋。巢多眾鳥鬭。葉密鳴蟬稠。苦遭此物聒。孰語吾廬幽。水花晚色靜。庶足充淹留。預恐樽中盡。更起爲君謀。

《夏日 李公 訪はる》
遠林 暑気 薄く。公子 我を過りて遊ぶ。貧居 村塢に類し。僻にして城南の楼に近し。旁舎 頗る淳朴。願ふ所も亦た求め易し。屋を隔てて西家に問ひ。借問す 酒 有りや不やと。牆頭 濁醪を過し。席を展べて長流に俯す。清風 左右より至り。客意 已に秋に驚く。巣 多くして 衆鳥 闘ひ。葉 密にして 鳴蟬 稠し。此の物の聒しきに遭ふに苦しむ。孰れか語らん 吾が廬の幽なるを。水花 晩色 静かなり。庶くは淹留に充(ア)つるに足らんことを。預め樽中の尽きんことを恐れ。更に起ちて君が為めに謀る。  

3-15 《贈衞八處士》 杜甫

人生不相見。動如參與商。今夕復何夕。共此燈燭光。少壯能幾時。鬢髮各已蒼。訪舊半爲鬼。驚呼熱中腸。焉知二十載。重上君子堂。昔別君未婚。兒女忽成行。怡然敬父執。問我來何方。問答未及已。兒女羅酒漿。夜雨剪春韮。新炊閒黃粱。主稱會面難。一擧累十觴。十觴亦不醉。感子故意長。明日隔山[岳/嶽]。世事兩茫茫。

《衛八処士に贈る》
人生 相ひ見ざること。動もすれば参と商の如し。今夕 復た何の夕ぞ。此の灯燭の光を共にす。少壮 能く幾時ぞ。鬢髪 各〻已に蒼たり。旧を訪へば半ば鬼と為り。驚呼して中腸を熱くす。焉んぞ知らん 二十載。重ねて君子の堂に上らんとは。昔 別れしとき 君 未だ婚せず。児女 忽ち行を成す。怡然として父の執を敬し。我に問ふ 何れの方より来たるやと。問答 未だ已むに及ばざるに。児女 酒漿を羅ぬ。夜雨に春韮を剪り。新炊 黄粱を間(マジ)ふ。主は会面の難きを称し。一挙 十觴を累ぬ。十觴も亦た酔はず。子の故意の長きに感ず。明日 山岳を隔つれば。世事 両つながら茫茫たらん。  

3-16 《佳人》 杜甫

絕代有佳人。幽居在空谷。自云良家子。零落依草木。關中昔喪敗。兄弟遭殺戮。官高何足論。不得收骨肉。世情惡衰歇。萬事隨轉燭。夫壻輕薄兒。新人美如玉。合昏尙知時。鴛鴦不獨宿。但見新人笑。那聞舊人哭。在山泉水淸。出山泉水濁。侍婢賣珠廻。牽蘿補茅屋。摘花不插髮。采柏動盈掬。天寒翠袖薄。日暮倚脩竹。

《佳人》
絶代 佳人 有り。幽居して空谷に在り。自ら云ふ 良家の子と。零落して草木に依る。関中 昔 喪敗し。兄弟 殺戮に遭ふ。官の高きは 何ぞ論ずるに足らん。骨肉すら収むるを得ず。世情 衰歇を悪み。万事 転燭に随ふ。夫婿 軽薄の児。新人 美なること玉の如し。合昏も尚ほ時を知り。鴛鴦 独宿せず。但だ新人の笑ふを見るのみ。那ぞ旧人の哭するを聞かんや。山に在れば泉水 清く。山を出づれば泉水 濁る。侍婢 珠を売りて廻り。蘿を牽きて茅屋を補ふ。花を摘むも髪に挿さず。柏を采りて動もすれば掬に盈つ。天寒くして 翠袖 薄く。日 暮れて 脩竹に倚る。  

3-17 《送諸葛覺往隨州讀書》 韓退之(韓愈)

鄴侯家多書。架插三萬軸。一一懸牙籤。新若手未觸。爲人强記覽。過眼不再讀。偉哉羣聖書。磊落載其腹。行年逾五十。出守數已六。京邑有舊廬。不容久食宿。臺閣多官員。無地寄一足。我雖官在朝。氣勢日局縮。屬爲丞相言。雖懇不見錄。送行過滻水。東望不轉目。今子從之遊。學問得所欲。入海觀龍魚。矯翮逐黃鵠。勉爲新詩章。月寄三四幅。

《諸葛覚が随州に往きて書を読むを送る》
鄴侯 家に書 多く。架に三万軸を挿む。一一に牙籤を懸け。新しきこと手の未だ触れざるが若し。人と為り強記覧。眼を過ぐれば 再びは読まず。偉なるかな 群聖の書。磊落として其の腹に載す。行年 五十を逾え。出でて守たること 数 已に六。京邑に旧廬有るも。久しく食宿するを容さず。台閣 官員多きも。一足を寄するに地 無し。我 官して朝に在りと雖も。気勢 日〻局縮す。属〻丞相の為めに言ふに。懇なりと雖も録せられず。行を送りて滻水を過ぎ。東望して目を転ぜず。今 子 之に従ひて遊ばば。学問 欲する所を得ん。海に入りて 竜魚を観。翮を矯げて 黄鵠を逐ひ。勉めて新詩章を為し。月に三四幅を寄せよ。  

3-18 《司馬溫公獨樂園》 蘇子瞻(蘇軾 蘇東坡)

靑山在屋上。流水在屋下。中有五畝園。花竹秀而野。花香襲杖履。竹色浸盞斝。樽酒樂餘春。棊局消長夏。洛陽古多士。風俗猶爾雅。先生臥不出。冠蓋傾洛社。雖云與眾樂。中有獨樂者。才全德不形。所貴知我寡。先生獨何事。四海望陶冶。兒童誦君實。走卒知司馬。持此欲安歸。造物不我捨。名聲逐我輩。此病天所赭。撫掌笑先生。年來效喑啞。

《司馬温公の独楽園》
青山 屋上に在り。流水 屋下に在り。中に五畝の園 有り。花竹 秀でて而も野なり。花香は杖履を襲ひ。竹色は盞斝を浸す。樽酒 余春を楽しみ。棋局 長夏を消す。洛陽 古より士多く。風俗 猶ほ雅に爾し。先生 臥して出でず。冠蓋 洛社を傾く。衆と楽しむと云ふと雖も。中に独り楽しむ者有り。才 全くして 徳 形はれず。貴ぶ所は我を知るもの寡きなり。先生 独り何事ぞ。四海 陶冶を望む。児童 君実を誦し。走卒 司馬を知る。此れを持して安くにか帰せんと欲する。造物 我を捨てず。名声 我が輩を逐ふ。此の病 天の赭くする所なり。掌を撫して先生を笑ふ。年来 喑啞に効ふを。

※●司馬溫公:司馬光 

3-19 《上韋左相二十韻》 杜子美(杜甫)

鳳曆軒轅紀。龍飛四十春。八荒開壽域。一氣轉洪鈞。霖雨思賢佐。丹靑憶老臣。應圖求駿馬。驚代得麒麟。沙汰江河濁。調和鼎鼐新。韋賢初相漢。范叔已歸秦。盛業今如此。傳經固絕倫。豫樟深出地。滄海闊無津。北斗司喉舌。東方領搢紳。持衡留藻鑑。聽履上星辰。獨步才超古。餘波德照鄰。聰明過管輅。尺牘倒陳遵。豈是池中物。由來席上珍。廟堂知至理。風俗盡還淳。才傑俱登用。愚蒙但隱淪。長卿多病久。子夏索居貧。回首驅流俗。生涯似眾人。巫咸不可問。鄒魯莫容身。感激時將晚。蒼茫興有神。爲公歌此曲。涕淚在衣巾。

《韋左相に上る二十韻》
鳳暦 軒轅の紀。竜飛 四十春。八荒 寿域を開き。一気 洪鈞を転ず。霖雨 賢佐を思ひ。丹青 老臣を憶ふ。図に応じて駿馬を求め。代を驚かしてして麒麟を得たり。江河の濁れるを沙汰し。鼎鼐の新たなるを調和す。韋賢 初め漢に相たり。范叔 已に秦に帰す。盛業 今 此くの如く。伝経 固より倫を絶す。予樟 深く地より出で。滄海 闊くして津無し。北斗 喉舌を司り。東方 搢紳を領す。衡を持して藻鑑を留め。履の星辰に上るを聴く。独歩 才は古を超え。余波 徳は隣を照らす。聡明 管輅に過ぎ。尺牘 陳遵を倒す。豈に是れ 池中の物ならんや。由来 席上の珍なり。廟堂 至理を知り。風俗 尽く淳に還る。才傑 俱に登用せられ。愚蒙 但だ隠淪す。長卿は多病なること久しく。子夏は索居して貧し。首を回らせば流俗に駆られ。生涯 衆人に似たり。巫咸 問ふべからず。鄒魯 身を容るる莫し。感激して 時 将に晩れんとす。蒼茫として興に神有り。公の為めに此の曲を歌へば。涕涙 衣巾に在り。  

3-20 《寄李白》 杜子美(杜甫)

昔年有狂客。號爾謫仙人。筆落驚風雨。詩成泣鬼神。聲名從此大。汨沒一朝伸。文彩承殊渥。流傳必絕倫。龍舟移棹晚。獸錦奪袍新。白日來深殿。靑雲滿後塵。乞歸優詔許。遇我宿心親。未負幽棲志。兼全寵辱身。劇談憐野逸。嗜酒見天眞。醉舞梁園夜。行歌泗水春。才高心不展。道屈善無鄰。處士禰衡俊。諸生原憲貧。稻梁求未足。薏苡謗何頻。五嶺炎蒸地。三危放逐臣。幾年遭鵩鳥。獨泣向麒麟。蘇武先還漢。黃公豈事秦。楚筵辭醴日。梁獄上書辰。已用當時法。誰將此義陳。老吟秋月下。病起暮江濱。莫怪恩波隔。乘槎與問津。

《李白に寄す》
昔年 狂客 有り。爾を謫仙人と号ぶ。筆 落つれば 風雨を驚かし。詩 成れば 鬼神を泣かしむ。声名 此れより大なり。汨没 一朝に伸ぶ。文彩 殊渥を承け。流伝 必ず絶倫なり。竜舟 棹を移すこと晩く。獣錦 袍を奪ひて新たなり。白日 深殿に来たり。青雲 後塵に満つ。帰るを乞ひて優詔もて許され。我を遇するに宿心 親し。未だ幽棲の志に負かず。兼ねて寵辱の身を全くす。劇談 野逸を憐れみ。酒を嗜みて 天真を見る。酔舞す 梁園の夜。行歌す 泗水の春。才 高きも 心 展びず。道 屈して 善に隣無し。処士 禰衡 俊れ。諸生 原憲 貧し。稲梁 求めて未だ足らず。薏苡 謗り何ぞ頻なる。五嶺 炎蒸の地。三危 放逐の臣。幾年か鵩鳥に遭はん。独り泣きて 麒麟に向かふ。蘇武 先んじて漢に還り。黄公 豈に秦に事へんや。楚筵 醴を辞せし日。梁獄 書を上る辰。已に当時の法を用ふ。誰か此の義を将って陳べん。老吟ず 秋月の下。病起す 暮江の浜。怪しむ莫れ 恩波の隔たるを。槎に乗じて 与に津を問わん。  

3-21 《投贈哥舒開府翰二十韻》 杜子美(杜甫)

今代麒麟閣。何人第一功。君王自神武。駕馭必英雄。開府當朝傑。論兵邁古風。先鋒百勝在。略地兩隅空。靑海無傳箭。天山早掛弓。廉頗仍走敵。魏絳已和戎。每惜河湟棄。新兼節制通。智謀垂叡想。出入冠諸公。日月低秦樹。乾坤繞漢宮。胡人愁逐北。宛馬又從東。受命邊沙遠。歸來御席同。軒墀曾寵鶴。畋獵舊非熊。茅土加名數。山河誓始終。策行遺戰伐。契合動昭融。勳業靑冥上。交親氣槪中。未爲珠履客。已見白頭翁。壯節初題柱。生涯似轉蓬。幾年春草歇。今日暮途窮。軍事留孫楚。行閒識呂蒙。防身一長劍。將欲倚崆峒。

《哥舒開府翰に投贈す二十韻》
今代の麒麟閣。何人か 第一の功ぞ。君王 自ら神武。駕馭 必ず英雄。開府 朝傑に当たり。兵を論ずること古風に邁ぐ。先鋒 百勝 在り。地を略して 両隅 空し。青海 箭を伝ふる無く。天山 早く弓を掛く。廉頗 仍りに敵を走らせ。魏絳 已に戎を和らぐ。毎に河湟の棄てらるるを惜しみ。新たに節制を兼ねて通ず。智謀は叡想を垂れ。出入は諸公に冠たり。日月 秦樹に低れ。乾坤 漢宮を繞る。胡人 逐ふを愁ひて北し。宛馬 又た東に従ふ。命を受けて辺沙遠く。帰り来たりて御席同じ。軒墀 曽て鶴を寵し。畋猟 旧(モト) 熊に非ず。茅土 名数を加へ。山河 始終を誓ふ。策 行はれて 戦伐を遺れ。契合して昭融を動かす。勲業 青冥の上。交親 気概の中。未だ珠履の客と為らず。已に白頭の翁を見る。壮節 初めて柱に題するも。生涯 転蓬に似たり。幾年か春草 歇き。今日 暮途 窮まる。軍事 孫楚を留め。行間 呂蒙を識る。身を防ぐ 一長剣。将に崆峒に倚らんと欲す。  

3-22 《贈韋左丞》 杜甫

紈袴不餓死。儒冠多誤身。丈人試靜聽。賤子請具陳。甫昔少年日。早充觀國賓。讀書破萬卷。下筆如有神。賦料揚雄敵。詩看子建親。李邕求識面。王翰願卜鄰。自謂頗挺出。立登要路津。致君堯舜上。再使風俗淳。此意竟蕭條。行歌非隱淪。騎驢三十載。旅食京華春。朝扣富兒門。暮隨肥馬塵。殘杯與冷炙。到處潛悲辛。主上頃見徵。欻然欲求伸。靑冥卻垂翅。蹭蹬無縱鱗。甚愧丈人厚。甚知丈人眞。每於百寮上。猥誦佳句新。竊效貢公喜。難甘原憲貧。焉能心怏怏。秪是走踆踆。今欲東入海。卽將西去秦。尙憐終南山。回首淸渭濱。常擬報一飯。況懷辭大臣。白鷗沒浩蕩。萬里誰能馴。

《韋左丞に贈る》
紈袴 餓死せず。儒冠 多く身を誤る。丈人 試みに静かに聴け。賤子 請ふ 具さに陳べん。甫 昔 少年の日。早く観国の賓に充てらる。書を読んで万巻を破り。筆を下せば神有るが如し。賦は揚雄に敵せんと料り。詩は子建が親たるを看る。李邕は面を識らんことを求め。王翰は隣を卜せんことを願ふ。自ら謂へらく 頗る挺出して。立ちどころに要路の津に登り。君を尭舜の上に致して。再び風俗を淳ならしめんと。此の意 竟に蕭条たり。行歌 隠淪に非ず。驢に騎ること 三十載。旅食す 京華の春。朝には富児の門を扣き。暮には肥馬の塵に随ふ。残杯と冷炙と。到る処 潜かに悲辛す。主上 頃(コノゴロ) 徴さる。欻然として伸ぶるを求めんと欲す。青冥より却ひて翅を垂れ。蹭蹬として縦鱗無し。甚だ愧づ 丈人の厚きに。甚だ知る 丈人の真なるを。毎に百寮の上に於いて。猥りに佳句の新たなるを誦す。窃かに貢公の喜びに効ひ。原憲の貧に甘んじ難し。焉くんぞ能く 心 怏怏たらん。秪だ是れ 走って踆踆たらん。今 東のかた海に入らんと欲し。即ち将に西のかた秦を去らんとす。尚ほ憐れむ 終南山。首を回らす 清渭の浜。常に一飯に報いんことを擬す。況んや大臣を辞せんと懐ふをや。白鷗 浩蕩に没せば。万里 誰か能く馴らさん。  

3-23 《醉贈張秘書》 韓退之(韓愈)

人皆勸我酒。我若耳不聞。今日到君家。呼酒持勸君。爲此座上客。及余各能文。君詩多態度。藹藹春空雲。東野動驚人。天葩吐奇芬。張籍學古淡。軒鶴避雞群。阿買不識字。頗知書八分。詩成使之寫。亦足張吾軍。所以欲得酒。爲文俟其醺。酒味既冷冽。酒氣又氤氳。性情漸浩浩。諧笑方云云。此誠得酒意。餘外徒繽紛。長安衆富兒。盤饌羅羶葷。不解文字飲。惟能醉紅裙。雖得一餉樂。有如聚飛蚊。今我及數子。故無蕕與薰。險語破鬼膽。高詞媲皇墳。至寳不雕琢。神功謝鋤耘。方今向泰平。元凱承華勛。吾徒幸無事。庶以窮朝曛。

《酔ひて張秘書に贈る》
人 皆な我に酒を勧むるも。我 耳 聞かざるが若し。今日 君が家に到り。酒を呼びて持して君に勧む。此の座上の客 為るは。余と各〻能く文を作す。君が詩 態度多くj。藹藹たり 春空の雲。東野は動もすれば人を驚かし。天葩 奇芬を吐く。張籍は古淡を学び。軒鶴 鶏群を避く。阿買は字を識らざるも。頗る八分を書することを知る。詩 成って 之をして写さしむれば。亦た吾が軍を張るに足る。酒を得んと欲する所以は。文を為(ツク)るに其の醺を俟てばなり。酒味 既に冷冽。酒気 又た氤氳たり。性情 漸く浩浩。諧笑 方に云云たり。此れ誠に酒の意を得たり。余外は徒らに繽紛たり。長安の衆富児。盤饌に羶葷を羅ぬるも。文字の飲を解せず。惟だ紅裙に酔ふを能くするのみ。一餉の楽を得ると雖も。聚飛の蚊の如き有るのみ。今 我と数子と。故より蕕と薫と無し。険語 鬼胆を破り。高詞 皇墳に媲(ナラ)ぶ。至宝 雕琢せず。神功 鋤耘を謝す。方今 泰平に向かひ。元凱 華勲を承く。吾が徒 幸ひに事無し。庶はくは以て朝曛を窮めん。 


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